身元調査と個人情報保護法について

身元調査と個人情報保護法について

(1)探偵が扱う個人情報

探偵業法において依頼者情報(氏名、住所、生年月日、性別など)や調査の過程で得た情報は、個人情報を含め秘密の厳守および適正な管理が定められており第三者に漏洩することはありません。探偵社は、従業員名簿を入手し管理する個人情報取扱い事業者でもあり個人情報保護法の精神に則り適正な入手および厳格な管理をしています。

個人情報に接する機会が多い身元調査は、会社採用対象者の身辺調査、結婚前の相手方の素行や人柄、商取引の契約相手方についての債務状況、過去のトラブル有無などを尾行や聞込みにより調査します。経歴や学歴に偽りはないか、前会社での仕事ぶりに問題はないか、ギャンブル癖、暴力癖や二股交際はないか、話を持ちかけてきた人物に前科注1)はないか、世間の評判はどうか、など対象者のプライバシーに関する内容が多くを占めます。個人情報を直接調査する浮気相手の素性(住所、氏名や妻子の有無)や遺産相続に関して被相続人の行方や家出人の所在調査の依頼がありますが、いずれもその所在地の調査方法や結果の取扱いについて問われることが多いと思います。

注1)要配慮個人情報(犯歴、病歴、同和問題、人種、国籍、信条)に関しては、差別調査に相当するため探偵は調査しません。聞き込みの過程やインターネット上の新聞記事のバックナンバー検索で判明してしまう場合もあります。

(2)探偵社が行う調査とは?

氏名や電話番号から住所の調査依頼がありますが、結果的に違法調査になるケースがあります。例えば、DV夫から逃げている妻の行方調査、ストーカー犯から狙われている被害者の所在地調査は違法となる可能性が高いです。探偵業法では、情報の利用目的に関する確認書の交付を義務付けており悪用の恐れが疑われる場合は、情報提供を取りやめるなどで対応しています。

インターネット上でのトラブル解決のため、メールアドレスやLINEアカウントから住所・氏名を割り出す依頼があります。ファイルのプロパティを表示してアドレスヘッダー部を解析すればIPアドレスまでは判明します。過去のメッセージの内容やIPアドレスから大まかな地域が割り出せれば、張込みや聞込みで調査することはありますが住所・氏名まで判明させることは困難です。IPアドレスを提供しているサービスプロバイダに対して開示請求しても個人情報保護法を理由に提供してもらえません。警察捜査でも開示請求するためには「捜査関係事項照会許可書」が必要です。仮に探偵事務所に依頼して住所、氏名が判明した場合、不法調査の可能性が高いです。

浮気調査などで対象者のプライバシーに対して尾行、聞きこみにより情報を収集することは、「探偵業法」で探偵業務として定義されており正当な業務です。前述のように浮気相手の氏名、住所を特定する場合、公的機関では個人情報保護法を理由に情報を提供してもらえない為、対象者の尾行、張込みによって情報を収集します。昔の恋人や恩師の住所、連絡先の調査で依頼者からの手掛りが極めて少ない場合、情報提供サービス会社を活用して手掛りを探る場合がありますが正当な会社かどうか確認しておくべきでしょう。

一方、行政書士事務所の中で「内容証明原案作成サービス」を提供する事務所があります。正当な理由で内容証明を送付する相手方の不明な住所を特定してもらうサービスです。正当な理由(不貞行為の相手が引越し、親族に大切なこと伝える、お金を貸したが返済なく引越したなど)が必要です。

(3)違法調査とは?

個人情報を不法に入手したり、犯罪などに悪用すれば法律に抵触することは自明ですが、以下の場合はどうなるのでしょうか?

・携帯電話番号から住所・氏名

携帯電話番号は、個人情報であり「電気通信事業法」、「個人情報保護法」が適用されるため情報の収集は不可能です。警察が犯罪捜査のため「捜査関係事項照会許可書」をとって携帯会社に開示請求すれば可能ですが、一般人が探偵を使って収集することは違法調査扱いになります。また、収集できたとしても証拠能力を失います。弁護士に依頼して弁護士会から開示請求する手はありそうですが、腰が重いようです。

・氏名・生年月日から住所

氏名・生年月日は個人情報の一種です。住民基本台帳、印鑑証明、住民票、戸籍謄本、戸籍抄本など公募関係は、本人または親族でない限り取得できません。本人から委任状をもらって始めて可能になります。個人情報保護法では、個人情報取扱事業者は本人の承諾がなければ原則として第三者に提供することができません。

名簿屋と言われる会社があります。社員名簿、卒業名簿や各種の会員名簿などをデータベース化して提供する会社です。電話帳、住所録、卒業名簿など種々のカテゴリーの名簿を適正に入手しデータ加工してダイレクトメールや電話営業、マーケテングを業務としている会社に名簿を提供しています。第三者に情報提供することを公表し「個人情報保護委員会」に届出をして情報提供のサービスを行っている会社もあれば不法に個人情報を売買する会社もあります。いづれも漢字氏名から住所を検索するサービスを行っているようですが、きちんと個人情報保護法を遵守している会社か否か留意が必要です。

このサービスは、同姓同名など複数の候補が抽出されることが多く本人特定が保障されるものではありません。生年月日や大まかな市町村名の情報から取捨選択して特定する作業が必要になります。昔、お世話になった人と急に電話連絡できなくなったが氏名しか分からないケースや結婚して名前が変わった方を探したいケースなど手掛りが全くない場合に手掛りを得る方法として有効かもしれません。但し、提供元が不当な手段で情報を入手し適正な管理ができていない業者から情報を入手すると違法行為になる恐れがあります。

・転居届けから現住所

一年以内であれば、郵便局の住所転居届けから現住所が判明する場合があります。郵便局への問合せが有効かもしれません。

・車のナンバーから住所、氏名

以前は、陸運局に出向いて「登録事項等証明書」を請求して所有者および使用者の住所、氏名が判明できました。しかし、10年程前からナンバープレートに記載の情報以外に車体番号も明記する必要になり簡単に申請できなくなりました。車種別の車体番号が刻印されている場所の一覧はネットで入手可能なようです。現在では、悪用防止や個人情報保護の観点から以下に挙げる具体的な説明がないと開示してもらえません。

1)私有地に放置車輌がある。
2)債務者の所有する車輌の差し押さえで債務者の車輌であることを確認する。
3)自動車の購入、売却時に所有者の確認ができない。

探偵に依頼し、対象車の車輌ナンバー、車種、色から尾行・張込みによって住所・氏名が特定できる場合があります。これは違法ではありません。

・携帯メールアドレスから住所・氏名

アカウント登録だけで使用できるWebメールと違って携帯メールアドレスには、氏名、住所、生年月日など個人を特定可能な情報が紐付けられています。携帯は無線局と同じ扱いで「携帯電話不正使用防止法」で保護され且つ個人情報を取り扱っていることから一般人が携帯会社やサービスプロバイダに問い合わせても提示してもらえません。情報漏洩でもない限り不可能です。公開しているHPサイトにパソコン用のメールアドレスが掲載されている場合は、会社概要ページに住所・氏名がもともと公開されています。刑事事件の捜査で令状をとって携帯会社に開示請求するケースはありますが、一般人が弁護士に依頼して弁護士法23条による開示請求しても入手は難しいようですね。

(4)改正個人情報保護法のポイントは?

氏名、住所、生年月日、性別、携帯電話番号などは、各々の情報を組み合わせることで個人が特定でき「個人情報保護法」の対象になっています。個人情報を取り扱う企業、団体、公共機関が意図せず情報漏えいに至った場合に管理機関より警告や管理体制改善指示が出されますが改善されない場合に「6ヶ月以下の懲役または30万円の罰金」が科せられることになっています。

個人情報保護法は、個人情報の保護と適切な活用を狙いに平成15年5月成立し平成17年4月施行されましたが、近年、個人情報取扱い事業者が不明確であったり顔認証データなど個人情報の種類が増え現状にそぐわないため改正され、「改正個人情報保護法」が平成27年9月公布され平成29年5月30日に施行されています。

主に以下の2点の改正がなされています。

①個人情報の数が5000以下の事業者は例外的に対象が免除されていたが、個人情報の数に拘わらずすべての事業者・団体が個人情報取扱事業者の対象になった。従来、免除されていた小規模事業者、自治会、同窓会も対象となる。

②個人情報の定義が明確化された。

 ・定義:生存する個人に関する情報であって特定の個人を識別できるもの:氏名、住所、生年月日、性別:履歴書など
 ・個人識別符号:顔認証データ、指紋、掌紋、虹彩、手首の静脈、声紋、DNA、マイナンバー、旅券番号、免許証番号、基礎年金番号、
  住民票コード、各保険証の記号・番号
 ・要配慮個人情報:人種、信条、病歴、犯歴、同和問題、思想など

③取扱事業者が守るべき5つのルール

 ・個人情報を取得・利用する時、「要配慮個人情報」は本人の同意が必要。取得した 際は、利用目的を本人に通知または公表する。
 ・個人情報を保管する時、情報漏えい等が生じないように安全に管理する。
 ・個人情報を本人以外の第三者に渡す時、原則としてあらかじめ本人の同意と「個人情報保護委員会」に公表内容の届け出が必要。
 ・個人情報を外国に居る第三者に渡す時、本人の同意が必要。
 ・本人から個人情報の開示を求められた時、本人からの請求に応じて個人情報を開示・訂正・利用停止すること。

探偵社が調査で接する個人情報は、目的ではなく手段として使用します。身元調査ではなくむしろ行方調査の過程でその住所の特定が必要なケースが殆どです。例えば、離婚した前の夫の勤務先(養育費の請求先)、借金で逃げてしまった人の所在、裁判で賠償請求する相手の所在地などです。DVやストーカーにからむ場合もまれにありますが全てお断りしています。個人の住所特定は、氏名だけでは不可能で生年月日や勤務先、通学先、顔写真、車輌番号などを組み合わせながら最終的に目視確認(動画像による証拠)して特定していく調査です。つまり、探偵社の調査力、機動力が最も試される調査と言えます。

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