身元調査の現状について

身元調査の現状について

(1)身元調査とは

身元調査は、個人を特定する情報(氏名、生年月日)や勤務先、学歴のほか人種、思想信条、犯歴、病歴、差別・偏見などプライバシーに関する情報(要配慮個人情報)を調べることです。後者のプライバシーに関しては、第三者に漏洩するとプライバシー権の侵害や名誉棄損になりますので取り扱いには注意が必要です。そもそも何故個人の情報やプライバシーを調べるのか?それがなければ重大な損失を被るためお金をかけてでも知る必要があるからです。

調査を依頼する目的は主に、採用関連、結婚前調査、信用関係に分けられます。採用関連では、職務適性、学歴詐称、ギャンブル嗜好性、退職理由など採用後のトラブル防止のための判断材料を得ることにあります。結婚前調査では、ご両親や祖父母からの依頼が多いですが最近では依頼は減ってきています。婚姻後の安定した生活や夫婦間のトラブルを少なくすることにあります。内容は学歴、生活状況、病歴、出生、婚姻履歴や交友関係などがあります。プライバシーに関する内容が含まれますので差別調査にならないよう留意する必要があります。信用関係では、ビジネス取引先の債務状況、経営状況(売上、従業員数など)があります。特殊な目的では、遺産相続や保険金関係があります。死の直前に生命保険をかけていた、自殺?したが思い当たる節がない、いつの間にか養子縁組していたり親族に内緒で婚姻届けが出されていたなど不審な状況がみられる際は、保険会社や弁護士から関係者に対する身元調査を依頼される場合があります。

(2)調査の方法は?

個人のプライバシーに関する情報を入手する方法は、現在のところ聞き込み以外にありません。(犯歴、病歴については、正当な理由があっても警察や病院から入手するのは困難です)。個人情報の入手方法は、公募(戸籍、住民基本台帳など)、個人情報取扱い事業者(データ調査)のほか信用情報機関などがあります。公募では、本人又は親族の委任状がなければ不可能です。委任状を偽造して使用すれば有印私文書偽造・同行使で犯罪となります。信用情報機関では、個人の負債状況に関するデータを保有していますが要求しても取り合ってもらえません。データ調査では、個人の情報を取り扱う事業者が保有するデータベース(卒業名簿、退職名簿、会員名簿などからエリア・生年月日毎に体系化した匿名加工個人情報)に対して性別、生年月日、漢字氏名などを条件に検索して収集します。個人の権利利益が侵害されなければ個人情報をビジネスに有効活用すること自体に問題ありません。また、携帯電話番号や車両ナンバーから個人の住所や氏名・生年月日を提供している業者がありますが、個人情報保護委員会へ届け出ていない場合が多く提供すれば違法(取扱い違反)になる可能性が高いです。(提供を受ける側は、罰則の規定はなさそうですがモラルが問われそうですね)。

行政書士、司法書士に依頼する方法として内容証明を送付する場合に限り住所を調査してもらえる場合があります。但し、もっともらしい理由づけが必要です。例えば借金して姿をくらましているとか、損害賠償請求したいとか、遺産相続の対象者や婚姻歴の有無の調査などの理由がはっきりしている場合なら可能です。DVとかストーカー犯罪につながる雰囲気が少しでも感じられる場合は対応してもらえません。探偵社も同様ですが・・・。

対象者が居住している住所が判明している場合は、近所の住人、マッサージ店、ラーメン店や居酒屋などで聞き込みにより情報収集します。また、卒業した学校が判明している場合は、学校関係者や元同級生を見つけ出して情報を聞き出しますが話術などの高度なテクニックが必要です。顔や大まかな居住地が判明している場合は最寄りの駅で張り込みを行います。漠然と張り込んでも手掛かりすら得られませんので戦略的に調査する必要があります。対象者がSNS利用している場合は、投稿された画像の背景から居住エリアや関係者が絞られ情報として利用出来ることがあります。調査員が増えたりや調査期間が長くなりますので料金は高くなる傾向があります。

(3)違法調査

尾行・張込み・聞き込み以外で個人情報を得る方法として漢字氏名などの確実な情報がある場合にはデータ調査が有効ですが、個人情報を不正に受領・提供している業者が存在しますので注意が必要です。個人情報を適正に第三者に提供する際は、個人情報保護委員会への届け出が必要です。仮に個人情報保護委員会への虚偽報告または第三者へ不正提供した場合は、1年以下の懲役または50万円以下の罰金が科されます。提供を受けた側の罰則は明示されてないようですが身分を偽って取得した場合は、罰せられる可能性があります。10年以上前には、携帯電話会社や市役所に協力者を配置して情報を収集する悪徳探偵が存在しましたが、これは列記とした犯罪です。検挙されれば、一貫の終わりとなります。現在は、データベースへのアクセス権限を監視強化しているため、理由なく電話番号指定で情報を引き出すのは不可能です。

注)「個人情報の保護に関する法律」(平成15年法律第57号)では、法人、個人事業者を問わず全ての事業者は個人情報取り扱い事業者になります。探偵社も同様です。第三者から個人情報の提供を受けたり提供する場合にこの法律が適用されます。携帯電話会社では、保有するデータベースに氏名・生年月日に対して住所、性別、電話番号、口座番号が紐づけられていますのでデータベースは極めて厳重に管理されていると思います。漏洩すればおそらく社会問題になりますね。また、匿名加工個人情報を保有している一部の探偵社ではデータベースの保守管理が大変です。ハッキングされないよう管理サーバーにはUTMなどのセキュリティが必要ですね。

探偵社の多くは、調査項目に身元調査を掲げていますが犯歴や病歴調査は明確に調査項目から除いています。住所・氏名・連絡先などはDVやストーカー犯罪に繋がる恐れがあるため正当な理由がないかぎり受けることはありません。しかし、探偵社が行っている身元調査の方法は表に出てきていないので実態は不明です。例えば、データ調査などは個人情報保護法に抵触する可能性があるとして敬遠している探偵社もありますが実態はわかりません。尾行・張込みには限界があり行政書士や弁護士で情報が取れない場合、情報源をもつ(正当な?)業者に検索依頼して何らかの手掛かりを得ているのではないかと思います。但し、得られた情報が対象に合致している確率はそれほど高くはありません。(同姓同名が存在したり、特定するための住所や生年月日が不明の場合は役に立ちません)。

(4)まとめ

依頼内容の多くは、企業関係を除くと浮気相手や嫌がらせ相手の住所・氏名などの個人を特定する個人情報のほか学歴、勤務状況、生活状況、嗜好性などプライバシーに関するものとなります。氏名・生年月日などの個人情報は、委任状がなければ公募(戸籍、住民票など)では取得できません。また、学校、勤務先では個人情報保護を理由に提供してもらえません。対象者のプライバシー情報は、扱いによってはプライバシー権の侵害で訴えられる可能性があり慎重に取扱う必要があります。また、差別調査や犯罪に加担するような違法調査については法律に抵触する恐れがあります。そのため探偵社は、依頼の受け方や情報収集の仕方については慎重に行い法律に抵触しないよう十分配慮する必要があります。

プライバシーに関しては尾行・張込み・聞き込み以外に方法はありません。通常、依頼者から得た対象者情報を基に対象エリアを絞り調査内容に応じて人員配置した上で「聞き込み」による情報収集を行います。場合によっては、小道具を用意したりシナリオを練って行います。但し、近隣の情報では風評など不正確な情報が含まれますので真偽の判断が必要です。対象者と敵対関係にある関係者からの情報は要注意で裏付けが必要です。しかしながら、調査期間や調査人数に制限があったり入手困難な項目がある場合は全ての結果が出ない場合もでてきます。契約段階でこの際の取り扱いを決めておく必要があります。また、得られた情報の秘密保持はもとより廃棄も含めて厳重な管理が要求されます。これは、「探偵業の業務の適正化に関する法律」にて定められています。

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