ストーカー被害への対策について考える
(1)ストーカー事案に対する相談状況
最近、ストーカー事件のニュースを聞かなくなりましたが、警視庁公開の「平成30年におけるストーカー事案及び配偶者からの暴力事案等への対応状況について」によれば相談件数は、平成30年は21,556件で前年比6.6%減となってますが平成24年以降依然として高水準で推移しています。平成12年にストーカー規制法が施行されて以降平成23年まで13,000件平均で推移していたものが編成24年以降急激に増加し20,000件を超え現在に至っています。
(2)行政措置状況
ストーカー規制法に基づく行政措置として警告件数は平成24年以降増加していましたが、平成29年(3,562件)から減少に転じ平成30年も2,451件(前年比-24.9%)と減少。しかし、禁止命令は緩やかな増加傾向にあったものが平成29年から急増。平成30年も1,157件と急増しています。つまり、警告では止まらず禁止命令まで措置が及ぶケースが増えています。
(3)検挙状況
ストーカー規制法違反の検挙は、平成24年(351件)以降増加傾向にありましたが、平成30年は870件(前年比-6.0%)と減少。一方、ストーカー事案に関連する刑法犯・特別法案の検挙は、平成24年(1,504件)以降高水準で推移していましたが29年から減少に転じ平成30年も1,594件(前年比-6.2%)と減少傾向にあります。一方、禁止命令違反が平成29年以降急増しているのが気がかりです。
(参考)刑法犯・特別法案(出典:警察庁:平成30年におけるストーカー事案および配偶者からの暴力事案等への対応状況)
平成26年 | 平成30年 | 平成26年 | 平成30年 | ||
殺人 | 5 | 1 | 窃盗 | 89 | 87 |
殺人未遂 | 9 | 4 | 住居侵入 | 309 | 311 |
傷害 | 213 | 89 | 器物損壊 | 156 | 127 |
暴行 | 179 | 149 | 名誉棄損 | 33 | 48 |
脅迫 | 465 | 231 | 暴力行為等処罰法 | 30 | 11 |
強要 | 62 | 59 | 銃刀法違反 | 64 | 32 |
恐喝 | 35 | 20 | 軽犯罪法違反 | 34 | 34 |
逮捕監禁 | 26 | 18 | 迷惑防止条例 | 60 | 129 |
強制わいせつ | 27 | 54 | その他 | 108 | 172 |
強制性交等 | 14 | 22 | トータル | 1,917 | 1,594 |
(参考)ストーカー規制法違反の内訳(出典:平成30年におけるストーカー事案および配偶者からの暴力事案等への対応状況)
平成26年 | 平成30年 | |
ストーカー行為罪 | 598 | 762 |
禁止命令等違反 | 15 | 108 |
トータル | 612 | 870 |
平成30年のストーカー事案(不起訴や警告で措置されたもの含む)の内検挙件数は2,464件あり、殺人(未遂を含む)が5件、暴行・障害が248件で生命・身体に直接危害が及ぶ事案は10%程度と少ない結果となっています。また、ストーカー規制法違反での検挙件数は870件で、全体の35%に留まっています。その他は、脅迫、住居侵入や器物損壊、迷惑防止条例など多種多様の罪名で検挙されておりストーカー事案のうち規制法以外での検挙数は65%に上っています。被害者には、加害者への処罰感情を抑制する心理が働くことがありストーカー規制での立件が見送られているケースがあるようです。
(4)被害者と加害者の状況
平成30年の被害者の男女比率は、男性12%、女性88%で圧倒的に女性が多く、一方、加害者の比率はこれと真逆の割合となっています。被害者の年齢は、20歳代が35.8%と最も高く、次いで30歳代が24.5%、40歳代が18.4%と続きます。加害者の年齢は、30歳代、40歳代が最も高く各々20.3%で、次いで20歳代が18.3%となっています。20歳代から40歳代の働き盛りの年代に多いのは嘆かわしいことです。
被害者と行為者との関係性では、交際相手・元交際相手が44.0%で最も多く、勤務先・職場が13.1%、知人・友人の13.0%と続きます。配偶者・元配偶者の場合は意外に少なく7.9%となっています。「面識なし」は7.6%、「行為者不明」が7.8%もあり「誰かに狙われている」というやっかいなケースで身体に危険を及ぼすリスクは否定できません。
動機の観点では、「別れ話」、「片思い」が動機のほぼ9割を占め、直接的動機は「好意の感情」が支配的ですが「好意が満たされず怨恨の感情」も同時に存在する、という特殊な心理構造があるようです。これがストーキング行為をやめさせるヒントになる可能性があります。厄介なのは、動機が不明のものが1割弱もあり行為者不明に重なる部分があるようです。
(5)ストーカー行為の罰則
2016年の改正で非親告罪となり被害者からの被害届が無くても逮捕できるようになりました。「付きまとい行為など」を繰り返し行った場合、1年以下の懲役または100万円以下の罰金となります。警告よりも重い「禁止命令」を破ってストーカー行為を続けた場合は検挙され2年以下の懲役または200万円以下の罰金となります。また、ストーカー行為に関係する写真データを破棄する命令が出ているのにデータを破棄しなかった場合は、6ヶ月以下の懲役または50万円以下の罰金となります。
(6)ストーカー被害者への警察の対応
ストーカー被害者は、行為者の身元が判明している場合は、所轄の警察署に相談されることをお勧めします。相談を受けた警察署は、出会いからトラブルに至った経緯や相談内容を聴取しストーカー規制法に抵触するかどうかの判断、事案の危険性を評価します。平成30年の援助申し出受理件数は相談件数の約35%(7,647件)に上っています。被害者に対する援助として「防犯指導」、「パトロール」、「援助」などが行われます。行為者に対しては、「指導警告」(警察に呼び出して法令に抵触する旨伝えて自制を求める)を行いそれでも迷惑行為を繰り返す場合は「警告」「禁止命令」などの行政措置が取られます。
被害者の感情として、ストーキングが収束し平穏に暮らせることを希望し処罰感情は顕著でない場合、指導警告だけで収束する事案も30%以上あるようです。然しながら、人命に関る事案も極めて少ない割合ですが存在します。迷惑度の高いストーキングを行う、深刻でなくても重大事件にエスカレートするケース、ⅮⅤやデート暴力からストーキングに転じる場合など報復を恐れて親告しないこともあり「危険性」の評価が極めて難しいことがあるようです。被害者の心理として、警察に知っておいて欲しい、相談するがしばらく様子を見たいという思いもあり警察として「対応の選択」は難しいものがあるようです。
〇警察ができる援助事項を以下に示す。
被害防止措置の教示、被害防止交渉に必要な事項の連絡、行為者の氏名及び連絡先の教示、被害防止交渉に関する助言、被害防止活動を行う民間組織の紹介、被害防止交渉場所としての警察施設の利用、被害防止に資する物品の教示又は貸し出し、警告等を実施した旨の書面の交付、その他被害防止のために適切な援助(110番緊急通報登録システムへの登録、住民基本台帳閲覧等に係る支援措置など)。その他の対応として被害者への防犯指導、加害者への指導警告、パトロール、GPS機能付き緊急通報装置の貸出し、法テラスの教示など。
(7)ストーカー被害に遭った時の対処
ストーカー被害を受け所轄の警察署に相談する前に、相手は誰か?嫌がらせの証拠は押さえているか?確認しておく必要があります。
①行為者が判明している場合は、いらがらせ行為の記録(つきまとい、交際の強要など)
②行為者との関係性、時期と経緯など
③行為者の素性(住所、氏名、身体的特徴など)
(8)探偵社にご依頼できる内容
①行為者不明の場合その人物の割り出し(住所、氏名など)
②嫌がらせ行為の証拠写真
③所管の警察署への相談支援(同行)
④沈静化工作(実施は状況に依存します)
ストーカー行為を沈静化させる工作は、行為者の素性や動機、行為の内容を確認し弁護士と協力し説得して行為を中止させるものです。探偵社だけでは法律の壁があり完全解決は難しいものがあります。恋愛感情の行き違い、一方的恋愛感情の謝絶などから「つきまとい行為」や「関係修復の強要」などの嫌がらせ行為を繰り返している段階であれば、3者で話し合いをして「行為者の誤解」を解くということになります。不調の場合は、警察へ被害届けを出す(相談する)ことになります。
恋愛感情から「恨み」や逆恨みの感情に変化している場合、行為者が「切れやすい性格」であれば警察に任せるのが最良の方法となります。嫌がらせ行為の証拠収集、行為者の割り出しができれば、警察署への相談が容易になります。しかし、警察も諸般の事情ですぐに動けるとは限りません。相談内容から深刻さや緊急性を判断して受理という流れになり、検挙まで時間がかかる場合があります。警察の対応としていきなり検挙ではなく「指導警告」をすることが出来ます。これで、収束するケースが30%以上あるとの事なので、このあたりが落としどころと思われます。
(9)探偵がやってはいけないこと
行方調査で、DV被害やデート暴力から逃れている被害者の所在地の調査依頼が入る場合があります。ストーカー被害に関しても同様に、行為者から被害者の住所や連絡先の調査依頼が入る場合があります。探偵社が調査依頼を受ける場合、依頼者と直接面談し対象者との関係性、調査の目的などを確認し少しでも怪しい言動や矛盾が見受けられる場合はお断りしています。ストーカー被害者の住所地など、調査依頼者が犯罪に利用する場合が推察される場合は、提供してはならないことが「探偵業法」で定められています。(提供情報を犯罪等に利用しない旨の確認書面の交付)。